VOL.58 ももちゃんの「ミャーオ」
私が席を立つ。
その気配を察して、それまで静かに眠っていたももちゃんが起きあがる。
「ももちゃん、起こしちゃったね、ごめんね。寝ていてくれていいんだよ」
と声をかけるが、ももちゃんはそのままぐーんと前足を伸ばして姿勢を低くし、
お尻だけ高く上げた格好でのびをする。
「う~ん、気持ちいいねぇ」
思わず声をかけたくなる立派なのびだ。
私はももちゃんに声をかけながら、書類を取り出すために、机の反対側の棚に向かう。
ももちゃんが私と並んで歩く。私と同じ速度で。
目当ての書類を取り出し、そばにいるももちゃんに「ももちゃん、待っていてくれてありがとう。終わったよ」と言い、また机への何歩かを一緒に並んで歩く。
私がももちゃんの速度に合わせて歩いているのか、
ももちゃんが私に合わせてくれているのか、時々わからなくなる。
でも、やっぱり並んで、一緒に歩いているわけで、
それが私をとても楽しい気分にさせてくれるのだ。
「行こう、行こう、もーもちゃん!」といい加減な節をつけて歌う。
このインチキな歌のおかげで、
お互いの足取りが軽くなるように感じているのは私だけだろうか。
たとえば、昼食の後、洗面所で歯を磨いている間、
ももちゃんが廊下で待っていてくれることがある。
ちょこんとお行儀よく、前足を揃えて。
そんな時も「ももちゃんありがとう。お待たせ、さ、行こう」と
言った後に続くのは「行こう、行こう、もーもちゃん!」の歌。
時に、この歌の後、すぐには席に戻れないことがある。
ももちゃんの必殺技『口角をキュッとあげて、
かわいく「ミャーオ」となくぞ攻撃』を受けてしまった時だ。
まんまるの瞳で見つめられ、この技を使われると、
私の足は彼のフードボウルの前に向かうことになる。
つまり、この攻撃は「ごはんを手で食べさせて攻撃」なのだ。
ももちゃんが来てくれたばかりの頃、
どうしてもうめちゃんと同じものを食べようとするももちゃんに、
成長に合わせたこども用ごはんを食べてほしくて、
手の平にごはんをのせて食べてもらっていたことが、
この悪癖をうむきっかけだろうと思う。
本当にお腹が空いていれば自分で食べるので、
たとえば私がいない時…なんて心配はいらないわけだけれど、やはり、悪癖には違いない。…大反省。
私と並んで歩き、洗面所の廊下、棚の前などで、
私を待っていてくれるのは、うめちゃんもいっしょ。
その時は「行こう、行こう、うーめちゃん」と歌いながら席に戻ることになる。
も もちゃんとの違いは、私が椅子に落ち着いたことを確認すると、
うめちゃんも、私のそばにある自分の席に戻り、くつろぎ始めること。
うめちゃんは、純粋に私が席に戻るのを待っていてくれるのだろう、
と解釈している。
もちろん、ももちゃんが待っていてくれるのは、
ごはんが食べたいからだけだと思っているわけではないけれど。
ももちゃんは最近「ごはんを食べさせて」攻撃の他に「撫で撫でして」攻撃も習得。
これまた速攻でやられてしまうすごい技だ。
ももちゃんはこれから、あといくつの技を磨いていくのだろう。
■前の「相棒猫日記」へ
■次の「相棒猫日記」へ
■「相棒猫日記」の目次へ