VOL.28 うめちゃん、ごめんね/2004年4月3日・土曜日(出会いから159日)
うめちゃんが、朝から何度もくしゃみをする。窓際で体が冷えたのだろうか。
心配なので、病院へ。
微熱があるとのことで、飲み薬と点眼・点鼻薬をもらって帰宅する。
くしゃみをすることを除けば、いつもと変わらず元気そうに見える。
念のため、今日は少し安静にしていてほしい、という私の思いとは裏腹に、うめちゃんは、どこからか、まるめた紙を持ってきて、私の足元に置く。
「ポコン遊びをしよう」の合図だ。
「遊ぼう」と期待のこもった、まんまるの目で見つめられると、「駄目」とは言い切れず「遊びたいということは、元気な証拠だろう」と、ほんの少しの時間、一緒にポコン遊びを楽しむ。
夕方、早く元気になってほしいと思い、うめちゃんの大好きな煮干しを小さくちぎってフードの上にのせてあげた。
「うめちゃん、ごはんだよ。はい、どうぞ、召し上がれ」
よかった。うめちゃんは、いつもと変わらない食欲をみせてくれた。
食後、病院でもらった飲み薬をあげる。
保護した当初から飲み薬は何度もあげてきたので、だいぶコツはつかんでいる。
スポイトの先を口の横から差し入れるようにして、ゆっくり静かに、中の薬を押し出していく。
うめちゃんも、それに合わせて舌を動かすようにして薬を飲んでいく。
上手、上手。嫌がることもなく、全部飲んでくれた。
さて、次は点眼・点鼻薬だ、と思った時、ふと考えた。
何故、風邪をひいたうめちゃんに、点眼・点鼻薬が必要なのだろう。
保護した時にも点眼・点鼻薬をあげていた。
その当時はウイルス性鼻気管炎にかかっていて、左目が大量の膿でおおわれ、開くこともできずつぶれたようになっていたから、何の疑問も持たずに、決められた通りに点眼・点鼻していた。
今日「点眼・点鼻薬です」と渡された時、その薬が何故必要なのかを聞かずに受け取ってしまった。
今になって悔やまれる。病院はもう診療を終えている。
普段と変わらず元気だということ、飲み薬をきちんと飲んでくれたということで、大丈夫だろうと判断。
私は点眼・点鼻薬をあげるのをやめることにした。
1時間ほど過ぎた頃。
突然、うめちゃんが吐いてしまった。
あわててうめちゃんのそばに駆け寄る。
うめちゃん自身もびっくりしているようだ。
さっき食べた煮干しやフードが、ほとんど消化されずに出ている。
と、今度は、うめちゃんの左目から大きな大きな涙がポロンポロンとこぼれだした。
大変だ! どうしよう! どうしよう、大変だ!
とにかく、病院。時計をみると8時に近い。
もう、この時間になれば、深夜まで診療してくれる救急病院へ行く以外に方法は思いつかない。
あわてて準備をし、うめちゃんにバッグに入ってもらう。
風邪で消化機能が衰えていたのだろうか、昼間、ポコン遊びをしたのがいけなかっただろうか、あの大粒の涙は点眼・点鼻薬をあげなかったからだろうか…。
病院へ着くまでの間、頭の中を様々な思いが浮かんでは消える。
「うめちゃん、ごめんね。うめちゃん、ごめん。もっとしっかり薬の内容を聞くべきだったよね、ごめん、ごめんね。苦しい?もう少しだから、頑張ってね」自分を責めるしかなかった。
うめちゃんは、バッグの中で静かに、私の顔を見つめている。
病院は混んでいた。
早くうめちゃんを診てもらいたいと思うが、それは、どの飼い主さんも一緒の思い。
とにかく順番がくるのを待つしかない。1分が10分にも感じられる…。
ようやく名前を呼ばれて診察室へ。
朝からの様子を話し、もらった薬を見てもらう。
ウイルス性鼻気管炎の菌は、ずっと体の中に残っていて、体が弱った時、ストレスを感じた時に活発に動き出すのだそうだ。
うめちゃんの場合は、特に左目が弱いため、左目に症状が現れたとの事。
吐いてしまったのは、たぶん飲み薬が合わなかったのだろうという診断結果。
丁寧な説明で納得、安心できた。新たに薬を処方してもらい帰宅。
やはり、点眼・点鼻薬には理由があったのだ。
何のために必要な薬なのかを、きちんと確認しなかった私が悪い。
勝手に素人判断で薬をやめて、うめちゃんに辛い思いをさせてしまった。ごめんね、うめちゃん。
うめちゃんの健康管理をしてあげられるのは私だけ。私には、うめちゃんを守る義務がある。もう、こんな失敗は二度とおかすまいと心に決める。
苦しかったね、うめちゃん。本当にごめんね。
落ち着いた様子で眠るうめちゃんの体を、私は静かになで続けることしかできなかった。
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