世の中にはきっと、はかりしれない力が働いていて、その中のひとつが私とうめちゃんとの出会い。
うめちゃんは、他の誰でもない、この私のところに救いを求めてやって来たのだと私なりの結論を見つけ、ならば、ずっとうめちゃんと一緒に暮らしていこうと誓った。
今日も薬をあげて、ごはんをあげて、いっぱいいっぱい撫で撫でして、たくさんたくさん話しかける。
まるで私の語りかけに応じるように、時々私の顔を見上げ「ミョン」とないてくれるうめちゃんが愛おしい。
私は長風呂である。お風呂の中で本を読んだり、考え事をするのが好きだ。
今まで、お風呂に入る時、うめちゃんには箱の中で過ごしてもらっていたのだが、もう大丈夫だろうという思いが頭をかすめ、箱の外、お部屋にうめちゃんを残し、のんびりとお風呂へ。
気分よくお風呂の時間を終え「うめちゃ~ん」と声をかけながら部屋の戸を開けたがいない。
うめちゃんがいないのだ。
戸は閉めておいたのだし、事実、今もこうして閉まっていたのだから、ここから出られるはずはない。
「うめちゃん」「うめちゃん!」箱の中、テーブルの下、カーテンのかげ、あちこち探すが、どこにもいない。
その時、チリリ…鈴の音。
ほんのかすかに。
うん? 耳をすます。
チリリ…。
うん?ソファの後ろだ。壁に押しつけておいてあるソファの後ろに潜り込んだらしい。
姿が見えないので、ソファをどう動かしたら良いかわからない。
どうかうめちゃんを傷つけませんようにと願いながらソファを壁から離す。
いた!壁に体をくっつけるようにしてまるくじっとうずくまっている。
うめちゃんがそばに来てくれた時、すぐにわかるようにと、首にリボンで結んでおいた鈴が、こんなところで役にたつとは。
これ以上小さくはなれないというくらいに身を縮め、うめちゃんは壁に身を寄せている。
うめちゃん…。
とてもショックだった。
うめちゃんは、まだこの部屋でさえも怖いのだ。
きっと、私の姿が見えなくなってしまったので、自分の身を守るため、こんな狭いところに潜り込んだのだろう。
私と過ごすようになって1週間。
やはり、まだ、一人で生きていた頃の恐怖心や警戒心はとれないということなのだろうか。
かわいそうに。
胸がつまる。
こわい想いをさせてしまったことを、心から申し訳なく思う。
ごめんね、本当にごめんね、うめちゃん。
会社の皆からも愛情を受けて、だいぶ人間にも慣れてきたと思っていた矢先の出来事。
何ともせつない。
生まれてから約2ヶ月間のあいだに、うめちゃんの身にはどんな事があって、うめちゃんはそれをどんな風に乗り越えてきたのだろう。
お母さんとはいつはぐれたのだろう。
何を食べて、どこで眠っていたんだろう。
もう何度も何度も繰り返した、答えなど見つかるはずのない疑問が、また頭の中をめぐる。
「うめちゃん、もう大丈夫なんだよ。安心して、のびのび過ごしていいんだよ」そう言いながら、私はやわらかいうめちゃんを抱きしめて、そっとそっとなで続けた。
どうかこの想いが、うめちゃんに伝わりますように。
うめちゃんが、つらい過去を忘れられる日が一日も早く訪れてくれますように。