VOL.5 私の決心/22003年10月31日・金曜日(出会いから5日)
2度めの動物病院。
ありがたいことに、先生はこの猫を覚えていてくれた様子。
「とてもきれいになったね」と褒めてくれた。
猫は、この数日をかけて念入りにグルーミングをし、自分の体をきれいにしたのだ。飽きることなく一生懸命に。
そんな話をすると「きれいにするから一緒にいてね、ここにおいてねって言ってるんじゃない?」なんて言う人もいて、また胸がサワサワしてくるのだ。
たくさんあるドアの中から、私のドアを選び、その前でないていた猫。
追いかけても、一気に遠くへ逃げ出すことはせず、離れては止まり、また少し離れては振り返ってということを繰り返してこちらの様子を見ていた猫…。
猫を診察しながらつぶやいた先生の言葉にハッとした。
「良かったよね、発見があと一日遅かったら、この猫死んじゃってたんじゃない?だって、ここに来た次の日は雨だったもの」
……そうか、やっぱりそうなんだ。この猫は私のところに来たんだ。
私に「助けて」と言って、やって来たんだ。
先生の一言がとても重く心に響き、その時私は決心した。
里親なんか探さない、私がこの猫と暮らそう。
いや、実はもっと前から、この猫と暮らそうと決めていたのかもしれない。
もしかしたら、「ミョーン」とないて、自分がお昼寝から目覚めたことを教えてくれた、あの瞬間から。
もしかしたら、私の指につけたミルクをなめた、あの瞬間から。
もしかしたら、この猫をドアの前で抱き上げた、あの瞬間から。
もしかしたら、私があの梅さんという女性の記事を読んだ時、すでにこの猫は私のところに来ることが決まっていたのかもしれない…。
考えすぎだと笑われようとも、そんな気がしてならない。
情がうつらないようにと、ずっと「猫ちゃん」と呼んでいた猫が、この瞬間から「うめちゃん」になった。
私のうめちゃんに。
すでに、私にとってうめちゃんはとても大切な存在になっていた。
たとえば里親が見つかって、離れなければならない日が来ることを考えると、どうにも落ち着かない。
里親にこだわったのは、もっと良い環境でのびのびと暮らしていけるのなら、うめちゃんにとってはそのほうが幸せだろうと思ったから。
でも、私なりに良い環境を整えてあげればいいんだ。
他の誰にも、この愛の深さは負けないだろう。
まるで、うめちゃんと暮らして行こうという決心を感じとってくれたかのように、この日からうめちゃんはおなかを見せてのびのびと眠るようになった。
本当に不思議な猫だ。
そんなうめちゃんを見ていると、今までひとりで頑張ってきた分、これからは、うんと幸せに過ごさせてあげたいと思う。
どんな小さな命でも、愛されるために生まれてくるんだと教えてくれた猫、うめちゃん。
うめちゃんがいるだけで、私の心はこんなにもあったかい。
「出会えて良かったね、うめちゃん」と、白くてやわらかいおなかに触れながら、言ってみた。
うめちゃんも、私と出会ってよかったと、そう思ってくれるだろうか。
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